「ねぇねぇライト。この鳥飼ってもいい?」
そう言ってミサが二週間ほど前に監視状況下の自分の部屋に持ち込んだのは、
きれいな極彩色の羽根を持つオウムだった。
「ライト、ミサ、ライト、ミサ、スキ!」
「わ、しゃべるんだ、そのオウム。ミサミサが教えたの?」
松田が能天気な声をあげた。
元から言葉をしゃべるよう躾けられていたのか、オウムはすぐにそう繰り返すようになった。
感情の起伏がないその音がどうも耳障りだと竜崎が感じたのは、単にうるさいからなのか、それともしゃべる内容が気に障るのか。
竜崎自身は意識せずとも「その鳥を黙らせてくれませんか」と不機嫌そうな顔で言うのを見れば、ただうるさいだけではないと知れる。
嫌ならミサの部屋などに行かなければいいのだが、夜神月と鎖で繋がれている以上、「デート」と称したままごとのような二人の逢瀬に、渋々ながらつきあわなければならなかった。
そんな状況下で、竜崎がいようといまいと月にくっつき、隙あらばキスのひとつでもと狙うミサに、前以上の苛立ちを感じる自分が面倒だった。
しかしそんな自分の感情が何かというところまで、竜崎は己を考え詰めない。
ただこう思う。
第二のキラと疑っていた頃の方が、まだ感情的にならずにミサを観察できたのに。
「そうだ、ライトー。お茶飲む? あ、コーヒーのほうがいいか。煎れてくるね。おいしいやつ」
デートに上機嫌のミサが、まるで新婚ごっこを楽しむような口調でそう言って、月をめぐる複雑な視線が絡み合い、膠着状態に陥っていたソファから立ち上がった。
「ミサさん私は紅茶がいいです」
竜崎がミサの顔も見ずに言う。
「竜崎さんの分は用意してません」
そう返してべーと舌を出してキッチンに消えたミサの後ろ姿を見送ると、竜崎はくるりと月を振り返り口を開いた。
「夜神くん、遠慮せずにいちゃついていいんですよ。私のことは空気だとでも思ってください」
ついそんな言葉が出る。
「そんなうっとおしい空気があるわけないだろ。存在感ありすぎだ。それに、別にミサに特別な感情は持っていない」
「じゃあミサさんの好意をいいことに、弄んでいるわけですか月くんは。ひどい男ですね。見損ないました」
竜崎との誘導尋問めいたやりとりに、月は意地になって返事を続けた。
「どうとでも言えよ。どうせ僕をキラだと疑っているんだろ? 今更竜崎に見損なわれたところで、これ以上僕の株が下がる心配はないから何て言われたっていいよ」
口を尖らせて「どうせ」という月の言葉に、どこか拗ねたような色が浮かぶ。
「月くんはキラじゃないですよ」
しれっと言う竜崎に、月がムッとした顔つきで近づき、胸ぐらを掴んで「心にもないことを言うな」と吐き捨てた。
「少なくとも、今の夜神くんは、最初に私が疑ったキラとは違うと思えるんです」
じっと、黒い瞳が覗き込んでくるのを、負けずに月も睨み返す。
「意味がわからないよ竜崎。僕は以前も今も変わっていない」
「月くんこそ、意地を張らずに認めたらどうなんですか。かつて、キラだったと。そして今は、キラではないと」
覗き合う目は互いの目の中に自分を見ていた。
「今も昔も僕はキラじゃない」
「強情ですね」
「どっちがだよ」
「ライト、ミサ、ライト、ミサ」
二人の喧嘩に水をさすかのようなタイミングで、オウムが啼いた。
「……本当にうるさいです。気に障ります」
「気に障るのは、オウムがしゃべるからなのか? それとも、オウムがしゃべる内容なのか?」
問われて、竜崎はじろりと横目で月を見ると、「どっちもです」と一言返した。
「ライト、キラ、ライト、キラ」
オウムがしゃべり出す。少し前までの言葉と異なる言葉。
いつの間に変化したのか、オウムは張り切って鳥かごの中でそう声をあげていた。
「ちょっと〜! そんなことミサ教えてないよ!」
「動物は正直なんじゃないですか?」
相変わらず3人で過ごすミサの部屋での、奇妙な緊迫感と牽制が走る中。
ワタリに用意させた紅茶とケーキで気まずいティータイムを過ごしながら、竜崎がしれっとそう答える。
「キラ、ライト!」
オウムは繰り返す。
「違うよ、ミ・サ。ミ・サだよ!」
「キラ、ライト! キラ、ライト!」
いつまでもおかしな復唱をしているミサとオウムを横目に、そんな言葉を仕込み直したのが誰かとっくに気づいている月は「やっぱり竜崎は僕がキラだと思ってるんじゃないか……」と、鎖の先に繋がれた相手に呟いた。
-----------------------------------------------------------------------------
【合宿罰ゲーム/月L悪魔の設定条件】
・いじっぱり白月
・月くんはきっとキラじゃありませんL
・シチュエーション:Lがミサとの間にびみょうにシットするようなタイドをみせたよ!
・アイテム:鳥
ありえない設定満載過ぎた。がんばっては…みたんだよ。ぱたり。条件を満たしているかどうかももうわからん。これが限界。