「これは何ですか? 竜崎」
「白い靴下です」
ワタリの問いに竜崎は平然とそう答えた。
「それは見ればわかりますが、なぜこんなにたくさんあるのです?」
目の前に積まれた白い靴下の山に目をやりながら、もう一度ワタリが尋ねる。
「ワタリは白靴下嫌いですか?」
「靴下の好き嫌いはあまり考えたことはありませんが…第一竜崎は靴下を履かないではないですか」
「履かないつもりはありません」
ぷい、と顔を背ける。意地になった竜崎の癖だ。
「では履きますか?」
「履くと足の裏がもぞもぞします」
「やっぱり履かないのですね」
いたずらっこを叱る口調でワタリが言う。
「いえ、履こうという決意のもとでこの白靴下を松田さんに買ってきてもらったのです」
「ほう…竜崎も大人になられた」
「…なんですか。その言い様は。まるで私が子供っぽいみたいじゃないですか…」
「そうですね。白い靴下を大人買いするほどには、大人のようです」
「………」
山と積まれた白い靴下の前で、竜崎はしばらく苦虫を噛み潰したような顔で、靴下を手にはめたり、足に履いてはおっかなびっくりおそるおそる指でつまんで引っ張ってみたりと悪戦苦闘をくり返す。床には右左バラバラになった白い靴下が散乱していた。
「おや、靴下はどうしましたか?」
後日、いつものように裸足でぺたぺたと部屋の中を歩いている竜崎に、ワタリがそう尋ねた。
「あんなものを履くと推理力が80%減です」
そう言って竜崎はぷい、とむくれたように老爺に背を向ける。子供っぽいのではなく、大人げないのだとワタリは思ったが、何も言わずにそっぽを向いた竜崎のために紅茶を煎れに席を立った。
その後、その大量の白い靴下がどこへいったのか、知る者はいない。
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