海/竜崎視点
某月某日。麺が退屈な出張先でキレイな海をぼーっと眺めているうちに「竜崎は本物の海を観たことあるのかなあ。飛行機からとかじゃなく」という妄想が沸き上がって、それと海の写真をヨーコ★さんに送ったら、なんだか素敵な松L小話が帰ってきたのでした。
ので、まずはヨーコ★さんのとこの
「海」を読んでから下をどぞ!

 あの日、あまりにも空が綺麗だなと思っていたら、捜査の途中で松田が「海に行ってみませんか……?」と言い出した。
 その遠慮がちな声に「いいですよ」と答えてしまったのは、竜崎も珍しく外で気晴らしがしたかったからだ。
 海といっても有名な海岸などではなく、入江の陰に隠れてひっそりとある小さな砂浜で、そのひとけのなさを竜崎は気に入った。
 車の中ですでに靴を脱いでしまっていたので、素足のままぺたりぺたりと白い砂を踏む。ざらりとした感触が足の裏を撫で、少しいかがわしい気分なるが、それを払拭するようにざくざくと砂を踏み締めて水際へ寄る。
「濡れますよ」
 靴下を脱いで後ろから慌てて追いかけてきた松田の声が聞こえたが、気にせずに、徐々に湿り気を帯び重くなっていく砂を踏み締めた。
 カシャ、と背後で携帯電話のカメラのシャッター音が聞こえる。
 離れているから聞こえないとでも思っているのだろう。
 潮風にのって、案外とその音は鮮明に竜崎の耳に届いた。
 振り向いて携帯を取り上げ、海にほおり投げてやろうかとも思ったが、思いとどまってそのままカシャ、カシャ、と聞こえる音を許した。
 どこにも残らないはずの自分の記録が、こんなアジアの果ての島国の、なんの取り柄もなさそうな名もなき捜査員の手のひらの中だけに残る。それを知ったら、Lの正体を躍起になって探している世界中の機関は、どう思うだろうか。想像して、竜崎はくすりと笑った。愉快だ。実に、愉快。
 
 波打ち際までくると、爪先に冷たい波があたった。
「上空からは何度も見る機会があったのですが」
 思ったことがつい口に出た。
 移動中の飛行機からは何度も見ている海。
 太平洋、大西洋、インド洋……主な海はすべて上空から見ている。人の住む陸地はこんなに小さいのかと、機上から見た時はその海原の広さに感じたものだ。
 寄せては返す波を、ひょいひょいとよけながら歩く。
 ひきずるような長さのジーンズの裾が濡れて足取りが重くなった。
「裾を折り曲げるといいんですよ」という声と共に、背後から抱き上げられ、ザザンと寄せた波の上に体が浮く。かつて地上一万メートルの上空から見た海を、今度はほんの数十センチ空中から眺める不思議に、竜崎は「やめてください」と言って笑った。
 松田の腕は思ったよりもたくましく竜崎を支えた。
 
 車に戻ると、松田が堪え切れない切羽詰まった顔をして唇を寄せて来た。
 黙ってそれを受け入れると、竜崎の中にたまっていた欲望も目を覚ます。
 狭い車内でもぞもぞと衣服を乱しながら交わると、クラクションがプーと鳴って、間抜けな二人を嘲笑った。
 
 ただ一度の情事を思い返すような感傷が、自分の中にあるとは思わなかった。
 それでも、あの時の松田のぎこちない指先や、自分の名を呼ぶ声や、熱い肌を、青い海の見える狭い車の中で確かめあった欲情を時折思い出しては、その幸いを顧みた。
 あの日、初めて残させた自分の記録は、まだ松田の手のひらの中にあるだろうか。
 
 また「海に行きませんか」と言い出したら、行ってやってもいい。
 
 
 

なんかこういう、ひとさまの二次創作物を、別視点とかにしてさらに二次創作するのが好きです。根っからパロディ体質なんですな…。
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